印刷機は、メタルマスク上に供給されたソルダーペースト(クリームはんだ)を、スキージを使ってメタルマスクの孔から基板のパッド上に転写する装置です。
現在のメタルマスクを用いた印刷は、ソルダーペーストの転写と版抜けの工程が明確に分かれます。それぞれ設備の設定が細かく行え、極めて精度の高い印刷が可能ですが、条件設定を誤ると印刷品質に重大な影響を及ぼします。SMTにおいて印刷品質は出来栄えの品質に大きく影響するため、印刷品質を最適に保つことがSMTの品質と保証するといっても過言ではありません。
印刷条件のうち、一般的に「印圧」と呼ばれているパラメーターがあります。印圧はスキージにかかる荷重または、スキージを押すシリンダーに供給する圧力を指しています。
一般的なオープン型スキージに限って言うと、実はこの印圧という用語自体が少々誤解を生みやすいのではないか、と思っています。「印圧」と言われると印刷の圧力、あたかもソルダーペーストに直接かかる力であるような印象を受けるのではないでしょうか。
最近の設備の取扱説明書には、印圧ではなくスキージ荷重と表示されることが多くなってきました。単位はN/mmで、スキージ1mmあたりにかかる荷重と言うことです。友松氏も著書で指摘するように、私もこの表現が正しいと思っています。
私がメインで使っている印刷機は、シリンダーにかかる圧力をそのまま表示するタイプです。そこで、印圧表現を換算してみたいと思います。換算するにはシリンダー径とスキージ長さが必要です。シリンダーはフローティングタイプのスキージだと2個ついているはずです。
スキージ全体にかかる荷重=(シリンダーの面積)×圧力×シリンダー数
スキージ荷重=スキージ全体にかかる荷重/スキージ長さ
ただし、スキージそのものの重さがキャンセルされていない機種では、その重さも加算する必要があります。もちろん単位は揃えてください。
EXCELで作っておきましたので、必要な方はダウンロードしてください。
適正なスキージ荷重を決めるには、実際印刷してみるのが一番です。私の場合なるべく値が小さくなるように調整しています。
これは余分な荷重がスキージの変形を招き、正しい充填を阻害することがあるからですまた、スキージやメタルマスクになるべく負荷をかけないようにもしています。
スキージ荷重の例を示します。
印刷機はパナソニックのSPP-Vです。この印刷機はスキージ荷重がシリンダーの圧力で表示されるタイプです。標準的に使用しているスキージ荷重の設定値はズバリ0.03MPaで、これを中心に±0.01MPaの範囲で調整しています。(もちろんあくまでもこちらの基準です。)スキージ長さは300mmです。
協力会社の一つに、全く同じ設備を持っている会社があり、そこはウレタンスキージなのですが、0.1~0.2MPa程度でやっているようです。ちょっとかけすぎではと思い聞いてみたところ、ソルダーペーストのかき残りがでるので、この値にしているそうです。しかしよく見ると、ウレタン先端部が曲がりスキージ角度がかなり寝た状態で印刷を行っていました。かき残りの原因は、スキージ荷重ではなくスキージの変形にあったということです。
さらに聞いてみると、かき残りが出たらスキージ荷重を増していっているということでした。初回の調整ならそれもあるかもしれませんが、通常の生産時に、メタルマスクや基板、ソルダーペーストが変わっていないのに、だんだんかき残りが出てくるのは、どこかが徐々に変化している以外にありません。この場合設備の摩耗や変形するところを考えるべきです。印刷機で該当する部分はスキージ(ウレタン)が該当します。
本来ならスキージを交換して管理すべきところを、スキージ荷重を増して対処し、さらに悪くなると、またパラメータをいじるという悪循環に陥っていたようです。
印刷品質は、実装品質に大きく影響します。対処療法ではなく、要因を正しく認識し対応すべきです。
スキージは、主に3つの種類があります。
ウレタンスキージは、昔からよく使われてています。他の素材に比べ安価で取り扱いが容易ですが、変形しやすく開口部が大きいところは、ソルダーペーストをかきとってしまい、転写量が減るという欠点があります。
メタルスキージは、SUS等の材料に特殊なコーティングをしたもので、変形がなく平行出しに気を使わなくて済む、理論上開口部のかきとりが発生しないなどの利点がありますが、メタルマスクにダメージを与えてしまう欠点があります。メタルマスクがアディティブは使用できません。
プラスチックスキージは、従来のウレタンとメタルスキージの良いところを併せ持つスキージです。ただし摩耗はしますので、定期的な交換は必要です。
プラスチックスキージの例を示します。
ウレタンスキージでは、ウレタン端面にはみ出たペーストが付着しそれを引きずって、開口部に余分なはんだを落としたり、開口部に付着して抜けを妨げる、いわゆる引きずり現象も発生しますが、このプラスチックスキージでは発生しません。
最近は、メタルスキージをよく使う傾向があるようですが、ウレタンのようにマスクへの追従性がないメタルスキージは、どうしてもウレタンより若干スキージ荷重を多くかけなければならないため、マスクを研磨しているような状態になっています。事実、協力会社にメタルマスクを支給して、傷だらけにされて返してもらったことがあります。
そもそも、メタルスキージは基本的にアディティブマスクには使えません。これを知らないところも結構多いようで、メタルマスクが摩耗して、規定量の印刷ができなくなってしまうことも多いようです。
また、説明したようにウレタンでは先端部の変形が発生し、ソルダーペーストの充填に悪影響を及ぼすことが多々あります。ウレタンスキージの管理は思ったより大変で、常に先端部の摩耗と変形を見ることが必要です。
これに対し、プラスチックスキージはメタルマスクを傷つけることなく、メタルスキージと同等の充てん量を確保できますし、引きずり現象も防止可能です。
管理もウレタンより簡単で、取り付けの際の平行出しは不要です。不思議なことに摩耗の度合いも、突然はんだのかき残しが発生しますので、すぐにわかります。
また、ウレタンでは4つの角を使えそうですが、結局変形して2つの角しか使えない場合が多いです。これに対しプラスチックスキージでは完全に4つの角が使えます。単価はウレタンより若干高い程度で、2倍使え、耐摩耗性もウレタンより耐久性があるため、トータルコストで見るとウレタンより安くなります。
現在取り扱っている印刷機メーカーは少ないのですが、徐々に代理店からも入手可能となり、好きな寸法に加工してくれるところも出てきました。
プラスチックスキージは本当におすすめです。
突然ですが、ソルダーペーストの手刷りを経験したことがあるでしょうか。私くらいの年代で古くからやっている人は1度2度あるでしょうし、今でも試作専門のところは結構あるようです。
手刷りを行うと、充填のメカニズムが良くわかります。いくらスキージを上から押してもソルダーペーストを充填させることができないか、身をもって知ることとなります。
ソルダーペーストの開口部への充填は、スキージの速度(ペーストの周速度)で決まることが良くわかるはずです。また、あの有名な削り節理論も、見ることが可能です。
削り節理論とは、ペーストの充填はスキージの移動方向の逆側から行われるという理論で、元リコーの木下さんが発表しました。
これを見るには、スキージを基板の中央部(開口部の中央あたり)で止めスキージをそっと離すと見ることができます。もちろん印刷が無駄になりますので、基板には保護シートを敷いてください。確かにスキージの方向と逆方向から充填されているのがわかります。
ところで、印刷機ではスキージが充填終了後、上に持ち上がる動作をするわけですが、どの印刷機も真上に持ち上がります。まっすぐ上に持ち上げると、ペーストがべったりスキージに付着することがあります。
スキージにペーストが付着してしまうと、肝心なメタルマスク上のはんだが不足してしまい、充填不足を発生させることがあります。
スキージにペーストをなるべくつけない方法は、手刷りをやっているとわかるのですが、スキージ角度の方向にそのまま平行に持ち上げると楽に持ち上がります。
これはおそらくスキージ角度と同じ方向に持ち上げると、スキージとペーストの間で「ずり」の運動がおこり、粘度が下がるせいだと思います。
動作的にはそんなに難しくないので、どこかの印刷機メーカーさん作ってくれないですかね。(アイディア料は頂きますけど)